雲の峰掲載作品(2023年)
4月号(第382号)
当月抄
浅春のビルに隠るる式部墓所
青葉集 「式部墓所」
寒の明け諍ひの地もなゐの地も
三川の合流柳芽吹かせて
浅春のビルに隠るる式部墓所
料峭の庭を横切る鳥の影
馬酔木咲く水子地蔵を守るごとく
梅東風や左大文字を背(せな)に
春寒し達磨大師が目を見張る
古都二月寺を出てまた寺に入る
5月号(第383号)
青葉集 「不折の書」
春めくや角やはらかき不折の書
沈丁の小径に入りて抜くるまで
子の幸を絵馬に託して竹の秋
古雛に迎へられたる昼餉かな
花辛夷沿ひに夕陽の落ちにけり
風渡る庭ごとの梅愛づる如
桃咲くや半旗掲げるオフイスビル
課題俳句 「菜の花」 佳作
どの雨も菜の花越しに降りにけり
6月号(第384号)
青葉集 「げんげ田」
棄てらるるポルシェの脇に花薺
サイレンの音の掠れて朝霞
燕来て見知らぬ同士語り合ふ
摂州に入りげんげ田に迎へらる
躑躅濃し隣家の主伏すばかり
帰郷てふ言葉を知らず春の鴨
桜蘂降る目的地知らぬまま
課題俳句 「桜」 佳作
名主逝き桜を遺す家屋敷
7月号(第385号)
青葉集 「憲法記念の日」
著莪咲くや此より上は修験道
滝しぶき笑みを絶やさぬ磨崖仏
竹皮を脱ぎ青空に身を晒す
小綬鶏に呼ばるるままに尾根の道
一片の雲なき憲法記念の日
こでまりの小さきアーチに雨弾む
生きたくば人恋せよと虞美人草
課題俳句 「牡丹」 佳作
牡丹緋に染まる仏堂開けてより
かきもり句会 主宰選
まくなぎや沢よりの風真向ひに
8月号(第386号)
当月抄
河鹿鳴く忍びの森の奥処より
青葉集 「忍びの森」
河鹿鳴く忍びの森の奥処より
男滝女滝ともに響かせ巨岩立つ
はんざきの微笑む如く口を閉づ
渓流の絶えざる音や鴨足草
蜈蚣死す進まんとする道を向き
鳴き競ひやがて鳴き合ふ河鹿かな
曇天に彩添ふる濃あぢさゐ
課題俳句 「薔薇」 入選
平安てふ薔薇真先に崩れをり
かきもり句会 主宰選
とうすみの静かに超ゆる県境
9月号(第387号)
当月抄
声明の声に傾く花擬宝珠
青葉集 「花擬宝珠」
北よりの微風を受けて茄子をもぐ
端居して庭師の重き腰眺む
鬼百合や残らず己が地を睨み
夕陽射す入道雲の頭まで
大原女の藍を横目に紫蘇畑
蝉時雨止みて写経の筆の音
涼風や欄間の鳥を発たせんと
声明の声に傾く花擬宝珠
課題俳句 「百日紅」 佳作
暮れてなほ薄紅解かぬ百日紅
誌上句会 特別選者特選
雨粒を光に変へて麦の秋
かきもり句会 主宰選
笹舟を流せし川や夕河鹿
10月号(第388号)
青葉集 「鳥威し」
風に誘はれはたはた発ちにけり
校庭の喧騒止みてつくつくし
青空に抗ふ如き紅芙蓉
赤蜻蛉地を這ふ如く発ちにけり
はつ秋や愁ひを眉に聖母像
輝きを風に託せる鳥威し
大黒の絶えざる笑みや秋暑し
青葉集前々月号鑑賞
はんざきの微笑む如く口を閉づ
課題俳句 「木槿」 佳作
木槿咲く疎水の流れ追ふ如く
誌上句会 2点句
青鷺の逆さに立てる水鏡
かきもり句会 主宰選
生身魂辛きは全て忘れよと
11月号(第389号)
青葉集 「命の色」
摂津への道の途切れて葛の花
糸瓜忌や床より望む庭の景
秋分の空を文殊の剣が突く
とんばうの眼に天皇陵皇后陵
棄て畑に命の色の式部の実
秋高し旧監獄の煉瓦塀
秋桜十三塔を囲ふかに
青葉集前々月号鑑賞
端居して庭師の重き腰眺む
青葉若葉抄(前月号より)
はつ秋や愁ひを眉に聖母像
課題俳句 「紅葉」 入選
向かひ合ふ師弟の句碑や薄紅葉
12月号(第390号)
青葉集 「地蔵の笑み」
朽仏色なき風を身に纏ふ
あきつ飛ぶ山よりの風切り裂きて
茅屋根の苔青みたる寒露かな
やはらかき顔の仏やそぞろ寒
献杯を数多の霊に酔芙蓉
側溝に己が色溜め萩垂るる
辻々の地蔵の笑みや秋ゆやけ
課題俳句 「蛇穴に入る」 佳作
叱責も助言も避けて蛇穴に
誌上句会 1点句・主宰推薦
供花より供花へあきつ移りけり
かきもり句会 主宰選
根上がりの狭間に紅葉且つ散れり