雲の峰掲載作品(2025年)
5月号(第407号)
当月抄
ソプラノの音域保ち囀れり
青葉集 「音域」
ソプラノの音域保ち囀れり
県境を越ゆる列車や梅真白
猫柳しろがねに黄を少し見せ
老犬に歩を合はす子や黄水仙
薺咲く奥処は子等の秘密基地
うぐひすや今朝はひときは麗しく
春泥を踏みしめ愛宕盲でかな
耕人の影を遠見に休みけり
課題俳句 「春灯」佳作
春灯下読み返したる師の句集
誌上句会 4点句
落ち葉掃く生ける証を積もらせて
かきもり句会 主宰選
亀鳴くや浄財光る池の底
6月号(第408号)
青葉集 「行基堂」
はくれんや丘の隅なる家屋敷
花揺るる謡の声に合はすかに
明けてより花敷く道となりにけり
雉鳴くや畦の一段高きより
歩きつつ吟ずる人や藤の花
藤垂るや風の向かうに行基堂
濃躑躅と共に古道の尽きにけり
課題俳句 「畑打」入選
畑打つや古道を脇に従へて
誌上句会 3点句
畦焼に影を消さるる鴉かな
かきもり句会 主宰選
飛花落花川を越すもの越さぬもの
7月号(第409号)
青葉集 「母の小言」
揚羽舞ふ五百羅漢を縫ふ如く
竹皮を脱ぎ古竹に触れ合ひぬ
蜜柑咲き思ひ出の道閉ざさるる
夢に見し母の小言や花茨
月見草彼方に富士の見ゆるごと
桑の実の色付きてゐる通学路
菖蒲園江戸の名ばかり咲き揃ふ
課題俳句 「梯梧の花」入選
花梯梧雨は沖にも海辺にも
誌上句会 特別選者特選
春めくやプリマの細き両腕
かきもり句会 主宰選
即位待つ礼拝堂に夏来る
8月号(第410号)
青葉集 「家路」
向日葵や野球少年足速し
子の駆くるあとの埃や夾竹桃
ジパングのなき世界図や梅雨じめり
青鷺がゆるりと人を振り返る
ガス灯の淡き明かりやけふ梅雨入
まくなぎを額に纏ふ家路かな
夏至ゆふべ昏きに映ゆる楽茶碗
課題俳句 「梅雨」佳作
男梅雨水琴窟の乱れ打ち
かきもり句会 主宰選
青柿や蘇生叶はぬ虫骸
1月号(第403号)
当月抄
冬麗や工場の煙真つ直ぐに
青葉集 「冬麗」
御所四温門の弾痕影を濃く
花枇杷や畦を駆け行く通学児
男島女島寄り添ふ岸や石蕗の花
冬ぬくし波に目覚むる浜の宿
寒菊や岬に果つるさざれ波
冬麗や工場の煙真つ直ぐに
石垣の間を塒に冬の蝶
菰巻の松の連なる野面積み
課題俳句 「釣瓶落し」入選
鉄橋の奥より釣瓶落しかな
誌上句会 4点句
霊峰の木々の息吹を霧と成す
かきもり句会 主宰選
寒林や継ぐ者のなき登り窯
2月号(第404号)
青葉集 「古祠」
寒菊や神を移せる古祠
花枇杷や遠くに街の覚むる音
枯葦に鳥の隠るる日暮かな
山茶花や本殿裏に細き川
木の葉雨光を帯びてゐたりけり
富籤を買ふ列長き師走かな
一陽来復踊り字踊る一茶句碑
青葉集前々月号鑑賞
雨上がる釣舟草を野に残し
課題俳句 「綿虫」入選
綿虫の漂ふ先に父母の墓
誌上句会 3点句
生きるとは己が為なり竹の春
かきもり句会 主宰選
あと云へばおうと応ふる初鴉
3月号(第405号)
青葉集 「冬木の芽」
命てふ繋ぎゆくもの冬木の芽
初声や一番列車動き出す
街頭に初雪映ゆる夜明けかな
地に着かず枝葉に着かず雪止みぬ
朝の日に成人の日の花ティアラ
松過ぎて森の残れる社かな
真直なる参詣道や花ひらぎ
課題俳句 「初鴉」入選
呟きて鎮守を望む初鴉
誌上句会 主宰推薦 6点句
石垣に猫の居座る四温かな
かきもり句会 主宰選
節分に追はるる鬼の赤ら顔
4月号(第406号)
青葉集 「深紅に深紅」
淡雪や天王山を対岸に
八重の梅深紅に深紅重ねけり
次々と車窓に溶くる春の雪
変はらざる遺影の笑みや桜餅
料峭や墳墓の上の鳥一羽
料峭の古都よりあふぐ比良比叡
早春やカフェ立ち並ぶ宿場町
青葉集前々月号鑑賞
一陽来復踊り字踊る一茶句碑
課題俳句 「薄氷」特選
足跡の一つひとつに春氷
誌上句会 1点句
外つ国の言葉飛び交ふ年の市
かきもり句会 主宰選
斑雪畦に置かるる藁一把
9月号(第411号)
当月抄
村人の優しさに触れ涼新た
青葉集 「涼新た」
向日葵に雀休める朝かな
老農のスマホ眺むる片かげり
はちす咲く無名戦士に手向くかに
夏点前躙り口より風吹き来
蝉生るや廃屋の梁朽ち落ちて
村人の優しさに触れ涼新た
オアシスの如き喫茶の片かげり
青葉集前々月号鑑賞
夢に見し母の小言や花茨
課題俳句 「滴り」佳作
滴りて顔のほころぶ仏かな
誌上句会 特別選者入選 5点句
薔薇の門潜りて薔薇の香を纏ふ
かきもり句会 主宰選
蜘蛛の囲の端まで朝日差しにけり