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方円掲載作品(2021年)

1月号(第395号)
方円秀韻抄

つはものの草も枯れ果て翁の忌
円象集 「宇治にて」
空稲架に山の景色を干しにけり
書離れの学生集ふ秋燕忌
式部の実宇治十帖を読み通す
つはものの草の枯れ果て翁の忌
冬立つや命の果ては神任せ
神仏の一山にをり秋惜しむ

2月号(第396号)
方円秀韻抄

影もまた木の葉とともに落ちにけり
円象集 「憂国忌」
影もまた木の葉とともに落ちにけり
獣道崩さるるまま山眠る
音もせず落ちる小雨や憂国忌
朝日すぐ雲に入りたり亜浪の忌
電飾の届かぬところ冬の月
一輪といふ孤独なり帰り花

3月号(第397号)

円象集 「去年の雪」

去年の雪はや山に染み野に染みて

初日射す生けるものには暖かく

ゆく年や生かさるるてふ有り難み

凍雲や盆地の縁に支へられ

凍滝を護れる神の立ち姿

観客は画面の向かう弾き初むる

​ (ウィーンフィルニューイヤーコンサート)

4月号(第398号)

方円秀韻抄

芽柳やランナー風を残し行く

円象集 「梅見頃」

一枝に先立つ梅と待つ梅と

紅梅の香の下に文を読む

芽柳やランナー風を残し行く

春きざす藪の道なる村社

葉牡丹の渦にこの風包まんと

​探梅や犬は足元ばかり見て

5月号(第399号)
方円秀韻抄

己が影伸ばし耕人帰りけり
円象集 「己が影」
己が影伸ばし耕人帰りけり
春灯や五人家族の時代あり
花開く戊辰の志士を眠らせて
地を這うて生きてゆかんと犬ふぐり
この風のふらここ揺らす力なく
川の名の変はる辺りの芽吹きかな

6月号(第400号記念号)

400号記念同人作品集 「命を見守る」

言ひ足りぬ事の多くて秋の蝉

一言の重みを増せる生身魂

表情の消ゆる家主やの氷柱

いくつもの命預かる夏木立

黴の香や塞ぎて久し勝手口

今日明日に境のなくて鉦叩

柳散る歌舞練場を対岸に

命とは風の如くと鰯雲

野葡萄の熟るる間もなく父逝けり

哀しきも寂しきも棄て去年今年

啓蟄や解体進む廃駅舎

初音聴く耳の神てふ摩崖仏

縦書きを好まぬ子等の筆始

浅春の渓に張り付く弥勒仏

生まれては消ゆる点描遠花火

東天紅色なき風に応へけり

つはものの草も枯れ果て翁の忌

影もまた木の葉とともに落ちにけり

芽柳やランナー風を残し行く

方円秀韻抄

修二会いま人の心の闇を焼く

円象集 「種案山子」

蒲公英や東の群と西の群

この土に立つが誇りと種案山子

喇叭水仙発車ホーンに向き直る

霾や痛みは誰の体にも

松露掻くなゐの海原眠る如

​修二会いま人の心の闇を焼く

7月号(第401号)

円象集 「青嵐」

阿より吹き吽へ流るる青嵐

一八や切妻屋根の古長屋

著莪咲くや山へ還れる廃寺跡

新しき道に竹皮落としけり

げんげ田や鉄路ののぼり下りにも

​芍薬を供ふ遺影は脇役に

8月号(第402号)

方円秀韻抄

時の日や時の止まれる如き街

円象集 「田植終ふ」

老農一人守るに足るる苗田かな

代掻ける川の流れに従ひて

時の日や時の止まれる如き街

ほととぎす峠の上は風ばかり

黒南風や下りに変はる転轍機

​代田波古墳二陵を渡るかに

9月号(第403号)
同人作品鑑賞(7月号より)

著莪咲くや山へ還れる廃寺跡

方円秀韻抄
けふ我鬼忌蜘蛛は命を助けらる
円象集 「我鬼忌」
けふ我
鬼忌蜘蛛は命を助けらる
針進む終末時計鱒二の忌

蛍火や寿命の話などをして

初蝉や部活の子等の声戻る

半夏雨水面に波紋とめどなく

​まくなぎの三歩離れて別の群

10月号(第404号)

方円秀韻抄

峰雲の付け根に左大文字

円象集 「空蝉」

空蝉二つ悲恋を謳ふ塚にゐて

     (松花堂・女郎花塚)

蓮開く我が身の紅を押し出して

星飛ぶや未だ命の尽くまじと

病室に響くフルート涼新た

峰雲の付け根に左大文字

​青鷺の風を残して立ちにけり

11月号(第405号)

円象集 「紅を差す」

底紅のきのふより濃き紅を差す

町医者の病に逝ける秋黴雨

きちきちの姿なきまま逃げにけり

ゑのこ草気ままな向きに首傾ぐ

鈴虫の三言呟く籠の中

​夏果つや雲を見送る山向かう

12月号(第406号)

今年の私の四季

己が影伸ばし耕人帰りけり

峰雲の付け根に左大文字

東天紅色なき風に応へけり

影もまた木の葉とともに落ちにけり

方円秀韻抄

命ひとつ見送る朝や柿たわわ

円象集 「母逝く」

母逝ける眼に名月を焼き付けて

逝く前の茶の一口や無月の夜

命ひとつ見送る朝や柿たわわ

鷹渡る浄土は遥かその先に

けふはまだ揺らす風なく秋桜

ちちははの住まへる天の高きかな

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