方円掲載作品(2020年)
1月号(第383号)
円象集 「石佛」
水引草小さき佛の眼差しに
霜降の土に埋もるる石佛
絶景にビルの加はり秋高し
赤のまま棚田一枚一枚に
枯園に風訪ふ音の乾きけり
メガソーラー休ませ釣瓶落しかな
2月号(第384号)
円象集 「石仏巡り」
そこここに石仏抱きて山眠る
花八つ手山の辺の道陰に入る
葉の落つや地の固ければ固き音
南天生る仏の供花絶えてより
冬の鵙なほも読経の低き声
悲も哀も飛べとばかりに空つ風
(台風被災地に想う)
3月号(第385号)
方円秀韻抄
縦書きを好まぬ子等の筆始
円象集 「初景色」
寒鴉山へ短き声放つ
掃き清め掃き清めても落葉かな
寒月の微光を嬰に集めをり
縦書きを好まぬ子等の筆始
初景色鳥と目線を同じうし
真直ぐに甍に向かふ初日かな
4月号(第386号)
円象集 「梅一輪」
梅一輪嵐に蘂を取られつつ
梅ふふむ隣の家は喪の明けて
峠にも人の営み大根干す
節分や追はるる鬼といふ孤独
春三日月句友の眠る地平より
虎落笛世界を駆ける訃の報せ
(コービー・ブライアント事故死)
5月号(第387号)
方円秀韻抄
浅春の渓に張り付く弥勒仏
円象集 「白木蓮」
風車風の訪ふ向き過ぎる向き
浅春の渓に張り付く弥勒仏
小綬鶏の声渓流を断つ如く
孕み猫地に足着けて歩みけり
白木蓮病の種を包む如
踏まざるを得ず参道の落椿
6月号(第388号)
同人作品鑑賞(令和2年4月号より)
春三日月句友の眠る地平より
円象集 「病の地」
鶯恋ふパンデミックの最中にも
燕来る病の地より病の地へ
家籠もりの増え三月の窓明るし
沈丁のかをり街まで山の風
大方は土に還れる落椿
春めくや楠公像の西向きて
7月号(第389号)
円象集 「青葉風」
鶯のよく歌ひよく休みをり
参道を外れる小径躑躅濃き
人影のなき地に集ふ花菜風
青葉風御手の固き門閉ざす
雉鳴くや寡黙を好む人のゐて
人思ふ心は捨てず更衣
8月号(第390号)
円象集 「竹皮を脱ぐ」
竹皮を脱ぐや此の世の風当たり
竹皮を散らし霊峰よりの風
片陰や街は戒厳令の如
賑はひの戻らぬ古都の夏薊
青葉風留まる場所を城と為す
苛立ちも不安も軒の簾越し
9月号(第391号)
円象集 「阿倍文殊院にて」
植田面に大和三山ひとつづつ
涼風を伴れて文殊の七参り
禊ぎ滝飛沫に祈り込めながら
額の花身代り仏の乗りさうな
新しき梁のにほひや梅雨晴間
黒南風や安倍晴明天仰ぐ
10月号(第392号)
円象集 「遠花火」
生まれては消ゆる点描遠花火
神前に背筋伸ばしぬ立葵
大河には大河の流れ晩夏光
秋立つや余命を少し延ばすかに
明易し考へ毎のいつまでも
見るたびに澄まし顔なり浮いてこい
11月号(第393号)
特集・朝人忌に寄せて
月もまた浄く輝るなり朝人忌
方円秀韻抄
東天紅色なき風に応へけり
円象集 「秋の風」
不動火焔流るる向きに秋の風
棄てられし名主の庭や野分あと
名峰に雲の影行く残暑かな
風止めど輝き続け鳥威
東天紅色なき風に応へけり(石上神宮)
かなかなのかなと言ひかけ去りにけり
12月号(第394号)
今年の私の四季
春三日月句友の眠る地平より
植田面に大和三山ひとつづつ
初盆や野菜嫌ひの亡父なりき
縦書きを好まぬ子等の筆始
同人作品鑑賞(10月号より)
生まれては消ゆる点描遠花火
円象集 「柳生街道にて」
後彼岸柳生の里の木のかをり
竿にゐて風見蜻蛉となりにけり
名月や火星を脇に従へて
十六夜やいつか病の癒ゆるなる
書院窓越しに秋天広ごれり
稲架建てて実りの色を壁となす