方円掲載作品(2018年)
1月号(第359号)
円象集 「冬景色」
流れ筋いくつも残し川涸るる
喧騒に背を向けてをり石蕗一輪
群れてなほ色に個のある芒かな
生命を堀に集めて冬景色
地鎮祭終へ霜降の草の群
再びの雨に消さるる秋の虹
2月号(第360号)
円象集 「冬紅葉」
阿の視線吽の視線や冬紅葉
万葉に謳へる山も眠りけり
誰に声聞かすともなく寒鴉
醜態を人には見せず白山茶花
紅葉散る思ひの色にならぬまま
笹鳴きのあと風の音畑荒るる
3月号(第361号)
方円秀韻抄
表情の消ゆる家主や軒氷柱
円象集 「寒に入る」
大寒や四方を睨む鬼瓦
啄木の如く手を見る寒の内
鉄道の運ぶ日常初日射す
霜解けて疎水の水となりにけり
表情の消ゆる家主や軒氷柱
神域と俗世の狭間万両濃し
4月号(第362号)
同人作品鑑賞(2月号より)
阿の視線吽の視線や冬紅葉
円象集 「春立つ」
新しき土地への一歩春立てり
紅梅の躊躇ひがちに開きけり
梅蕾既に己の色を知る
寒明けの雨は庵を包みをり
強く生きよと山茱萸の黄金色
初雪を芝に遺して夜明けかな
5月号(第363号)
円象集 「梅日和」
成すがまま生きるが宜し青柳
現実は塀の外なり梅日和
様々な言葉飛び交ふ梅見かな
恋猫の命継ぐ日に訃の報せ
朧なる街ユトリロの描きさうな
蝋梅の数へる程の香りかな
6月号(第364号)
円象集 「春塵」
春塵や文化住宅壊さるる
花影を抜けて三川出会ふ場所
蒲公英の親離れせぬ子を抱く
それぞれに想ふ人あり囀れる
低山と言へど山なり木の芽張る
蒲公英や個を好む者嫌ふ者
7月号(第365号)
円象集 「山寺にて」
音立てて椿落つなり修験道
囀りも羽ばたきも止め座禅堂
神木に鳥数多をり薄暑光
薫風や矜羯羅童子微笑みて
著莪集ふ都の水の涌きはじめ
ランナーの列に青葉の蔭やさし
8月号(第366号)
特別作品 「四葩育む土」
どの庭も四葩育む土のあり
舗装道尽き此処からは青葉蔭
畦ごとに鳴き競へるか雨蛙
早朝に詣る人をり時鳥
山里の地名変はりし代田波
人も去り晴れ間も去りて牛蛙
菖蒲園離れ静かに一花二花
梅雨晴や礎石残らず天仰ぐ
濃あぢさゐ個性は生まれながらにて
天仰ぐばかりならざり額の花
まだ色の極みにあらず七変化
虫移る濃紫陽花より濃紫陽花
白紫陽花葉脈さらに太くする
子の駆けるあとの微風や梅雨晴間
突き上げる如き余震や梅雨湿り
円象集 「入梅」
石仏の顔やはらかき梅雨晴間
入梅や水面に命ひしめきて
黴の香や塞ぎて久し勝手口
水澄まし風来る向きに直りけり
五月闇玄武の顔に曇りあり
涼しさや一願不動苔纏ふ
9月号(第367号)
方円秀韻抄
いくつもの命預かり夏木立
円象集 「命」
なゐの道蟻整然と帰りけり
緑蔭や固き扉の山車倉庫
病む耳の奥まで祇園囃子かな
向日葵や人の命は不公平
流さるる命数多に夏出水
いくつもの命預かり夏木立
10月号(第368号)
同人作品鑑賞(8月号より)
黴の香や塞ぎて久し勝手口
同人特別作品管見(7月号、8月号より)
「四葩育む土」
どの庭も四葩育む土のあり
梅雨晴や礎石残らず天仰ぐ
まだ色の極みにあらず七変化
子の駆けるあとの微風や梅雨晴間
突き上げる如き余震や梅雨湿り
方円秀韻抄
今日明日に境のなくて鉦叩
円象集 「秋はじめ」
特急の警笛ひとつ秋立てり
生まれては消ゆる小波秋はじめ
言ひかけて秘める台詞やつくつくし
今日明日に境のなくて鉦叩
蜻蛉発つ地面揺るるを感じつつ
きちきちの風に押されて逃げ戻る
11月号(第369号)
朝人忌に寄せて
師父の目で臨む夕陽や朝人忌(琵琶湖・尾上)
方円秀韻抄
柳散る歌舞練場を対岸に
円象集 「柳散る」
柳散る歌舞練場を対岸に
鉦叩不意に黙する深山なる
漁終へる船続々と二百十日
鳥威見えぬ場所より雀どち
各々の死に所あり秋の蝉
式部の実闇夜に色を隠しけり
12月号(第370号)
今年の私の四季
新しき土地への一歩春立てり
いくつもの命預かり夏木立
今日明日に境のなくて鉦叩
表情の消ゆる家主や軒氷柱
方円秀韻抄
命とは風の如くと鰯雲
円象集 「寒露」
去る命未だ漂ふ寒露かな
命とは風の如くと鰯雲
秋晴れや大河の今日は穏やかに
富有柿遺影の今日は穏やかに
松虫や名士の墓も無縁様
昔語りする齢になり古酒を飲む