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方円掲載作品(2022年)

1月号(第407号)
方円秀韻抄

命過ぎ命迎へる竹の春
円象集 「白粉花」
命過ぎ命迎へる竹の春

止めどなき流れに落葉止めどなく

白粉花化粧好まぬ妣なりき

凛とせし遺影に今年米供ふ

秋高し眠るまま終ふ宮参り

​追憶てふ花言葉なる茶の咲けり

2月号(第408号)
円象集 「冬銀河」
ちちははも此処に泳ぐか冬銀河

農夫手を止めぬ勤労感謝の日

枯野行く僅かな息吹求めつつ

城跡を示す地名の冬ざるる

胼の手を添へて喪中の文を書く

​この命まだ果つるまじ枯蟷螂

3月号(第409号)

同人作品鑑賞(1月号より)

止めどなき流れに落葉止めどなく

方円秀韻抄

太郎の庭次郎の庭に雪をんな
円象集 「雪をんな

酒蔵に木の香りたる二日かな

年迎ふ手水の水の涸るるまま

境内に薪積むもまた年用意

本殿に連なる末社笹子鳴く

太郎の庭次郎の庭に雪をんな

​年の瀬や路地には風の渡るのみ

4月号(第410号)

特別作品 「穏やかなれ」

うつし世の穏やかなれと紙雛

やまびこの今朝は応へず冴返る

東風吹くや風化の岩を舞ひ散らせ

春寒し五鈷杵を握る大師像

梅咲くや唄ふ口せる菩薩像

苔纏ふ土塀の甍余寒なほ

​浄土てふ庭より鳥の帰りけり

緑青の吹く梵鐘や春寒し

浅春や中将姫像頭巾替へ

花菜風オカリナの音に誘はれて

山笑ふけふ杖立てに杖のなし

強東風や十二神将口ひらく

陽の落つや山茱萸照らし鴟尾照らし

春めくや阿修羅の顔のなほ険し

正門より風押し出さる卒業式

方円秀韻抄

天井川南の土手の下萌ゆる
円象集 「天井川

春待つや土蔵の重き窓を開け

山笑ふ麓におはす神もまた

​天井川南の土手の下萌ゆる

梅林の紅に始まり紅に終る

頂ける一花を手向く菜の花忌

​畦焼のあと自転車の黒轍

5月号(第411号)
同人作品鑑賞(2月号より)

胼の手を添へて喪中の文を書く
方円秀韻抄
蛇出づる未だ疫の世続けども
円象集 「啓蟄」
啓蟄の芝生に獣駆けし跡

蛇出づる未だ疫の世続けども

水煙の幾何学模様かぎろひぬ

裏道へ人を誘ふ緋木瓜かな

浅春や倒木未だ土にならず

​鷺佇ちて夕東風吹ける向き睨む

6月号(第412号)
方円秀韻抄
桜並木摂津を前に途切れけり
円象集 「桜並木」
桜並木摂津を前に途切れけり

黙食てふならひ蛙の鳴き止みて

清明や畑一面の無名草

花並木走者ペースを緩めけり

花冷えや雉鳩の声裏返る

​雲過ぎぬ野焼きの煙従はせ

7月号(第413号)
同人特別作品管見(4月号・5月号)

うつし世の穏やかなれと紙雛

やまびこの今朝は応へず冴返る

春寒し五鈷杵を握る大師像

浄土てふ庭より鳥の帰りけり

春めくや阿修羅の顔のなほ険し

円象集 「雉一羽」
雉一羽思ひの丈は一言で

苔むせる二尊石仏五月来ぬ

竹皮を脱ぎ戦なき地に生きる

いにしへの堀より取れる代田水

湖風の湖へ帰りぬ麦の秋

​渓深き棚田の底の昼蛙

8月号(第414号)
方円秀韻抄
河鹿鳴く万葉の歌唱ふかに
円象集 「万葉の歌」
河鹿鳴く万葉の歌唱ふかに

桑の実や舗装の進む旧街道

田水はや緑帯びたる芒種かな

尺蠖の頑なに枝演じ切る

陵の暗き茂みや牛蛙

​神域を黄金に染めて麦の秋

9月号(第415号)
同人作品鑑賞(7月号より)

雉一羽思ひの丈は一言で
方円秀韻抄
水澄まし程よき距離を保ちけり
円象集 「向日葵」
命とは重きものなり向日葵咲く

七変化まだ何者に為る前の

消息の知れぬ友あり半夏生

花石榴朱の濃ゆきまま落ちにけり

水澄まし程よき距離を保ちけり

​梔子に振り向く程の微風かな

10月号(第416号)
円象集 「蟷螂生る」
生れ出てまづ蟷螂の鎌を研ぐ

海の日に山幸彦の降り来たり

金亀子腹輝かせ逝きにけり

涼しさや笑みを絶やさぬ石羅漢

ビル迫る父祖の墓なり盆の月

​片陰に列を為したる家路かな

11月号(第417号)
円象集 「萩の風」
落ちてなほ純白芙蓉ならんとす

萩の風一期一会と知りながら

薬草園に生き長らへて秋の蝉

とんばうの人恋ふ如く人に向く

宮の名を頂く橋や涼新た

​城門を風の行き交ふ白露なる

12月号(第418号)

今年の私の四季

雉一羽思ひの丈は一言で
河鹿鳴く万葉の歌唱ふかに
命過ぎ命迎へる竹の春
太郎の庭次郎の庭に雪をんな
方円秀韻抄

浄土まで澄める帰燕の空なりけり
円象集 「月今宵」
月今宵服喪の民を見上げさせ(エリザベス女王死去)

秋霖や苔を纏へる檜皮屋根

慰霊碑の文字の薄れて死人花

神域を洗ひ流して秋黴雨

​激流の飛沫を糧に水引草

浄土まで澄める帰燕の空なりけり

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